
報道とアンカリング
近頃の話題といえば国有地の払い下げ問題である。RSSを読もうが、Twitterを眺めようが、なんとか学園の話題ばかりだ。私は家にテレビも無ければ新聞も取っていないので、それらのメディアでどういった報道をされているかはあまり知らないが、ネットからの断片的な情報を見る限り多くの時間と紙面はそこに割かれているのだろう。
念のため補足しておくと、国有地を学校法人に対して払い下げる際に、安倍総理の関与があって通常よりも安く払い下げたのではないか?という疑惑である。
近頃のテレビや新聞の報道は偏向だと指摘されることが少なくない。問題の本質部分からかけ離れたことを報道し、印象操作している感じすらある。私がテレビを見なくなった理由の一つはそれだ。この手のニュースに関しては客観性や中立性を持って見るよう努めることが重要だと考えるが、メディアの報道の仕方によってはそれが歪められてしまうことがある。
日経新聞によるアンケートとその結果
数日前に面白いアンケートがあったので取り上げようと思う。日経新聞のアンケートである。
森友学園の国有地取得、真相どう解明?(クイックVote) [¹]
このアンケートはまだ、問題となった学園の理事長が国会での証人喚問を受けていないときのものだ。
ひとつ目の質問
(1)大阪市の学校法人「森友学園」の国有地取得問題の真相解明に関し、あなたはどのように考えますか
に対して
A.会計検査院の審査で十分だ (20.9%)
B.政府や自民党内で調査すべきだ (6.1%)
C.関係者を国会に参考人招致すべきだ (70.8%)
D.その他・わからない (2.2%)
まずこの質問は調査の主体を問うものだが、D以外はいずれにしろ調査(審査)という選択肢しかない。
二つ目の質問は
(2)森友学園は大阪府からの認可を経て、4月に小学校「瑞穂の国記念小学院」を開校する予定ですが、あなたは大阪府がどのように対応したらいいと考えますか
という質問で
A.認可判断を先送りにした方がいい (26%)
B.現段階で認可と判断した方がいい (6%)
C.現段階で不認可と判断した方がいい (65.7%)
D.その他・わからない (2.3%)
という結果だ。
この二つの質問の結果から、現段階では疑惑の真相もわからないという状態なので、さらに審査すべきであり現段階では不認可という意見が多い。基本的に与党に肩入れしてバイアスがかかっていない限りはそのような回答になるだろう。
印象的なのは最後の質問の結果と、この質問が最後の質問であるという「 質問の順番 」である。
(3)安倍内閣を支持しますか、しませんか
これに対する回答は
する (36.1%)
しない (63.9%)
内閣を支持するという意見が36.1%となっている。
朝日新聞の調査では、同じ時期の支持率が50%を超えていた。
内閣支持率推移グラフ [²]
それにも関わらずなぜこのような結果になったのだろうか。
アンカリング問題
日経新聞がこれを意図していたかどうかは不明だが、この結果には アンカリング の効果が現れていると言えるだろう。
ある実験で、大学生に「あなたはどれだけ幸せですか」「あなたはどれくらいデートをしていますか」という二つの質問をした。この順番で質問した場合、両者の相関は極めて低かった(0.11)。
しかし、順番を逆にしてデートの質問を先にしたところ、相関は0.62に跳ね上がった。
明らかに、学生はデートの質問に刺激されると、「デート・ヒューリスティクス」とでも言うべきものを使って、自分がどれだけ幸せかという質問に答えている
[³]
このように、アンカリングとは何らかのアンカーをもとに(たとえ関連性がなさそうなアンカーでさえ)意思決定のプロセスに影響を与えることである。
先程のアンケートの結果はひとつ目・二つ目の質問で与党に(も)何らかの問題があるように答える人が多く、その結果をもとに支持率の質問に答えるので、前の質問をアンカーにした可能性が高い。
意図するにせよしないにせよ、マスメディアはこういったアンカリングを作り出す。さらに、実際には重要でない問題を何日にも渡って報道することで重要であるかのように誘導することもある( 利用可能性ヒューリスティクス の誘導)。
そう考えると、もしマスメディアの意見がどちらかに偏っていた場合、印象操作で世論を動かそうとすることもあるだろう。新聞やテレビからしか情報を得ない層は一定数いるのだ。
もはや第四の権力と呼ばれるマスメディアの偏向報道に、我々は惑わされないよう注意しなければならない。
[¹] 森友学園の国有地取得、真相どう解明?(クイックVote) (2017年3月28日閲覧)
http://www.nikkei.com/news/survey/vote/result/?uah=DF030320172021
[²] 内閣支持率推移グラフ (2017年3月28日閲覧)
http://www.tv-asahi.co.jp/hst/poll/graph_naikaku.html
)
[³] リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン著 遠藤真美訳 (2009).
「実践 行動経済学」 日経BP